トヨタ自動車<7203.t>が2008年世界販売で米ゼネラル・モーターズ(GM)を上回り、77年ぶりに業界の首位が交代した。

 しかし、自動車需要が急減する今の局面では、頂点を目指すために増やした設備や人員が逆に負担となり、初の営業赤字に転落する一因となっている。事業環境の回復が当面見込めない中、トヨタが黒字浮上を実現するには、過剰生産能力の解消や人件費削減で固定費の圧縮を急ぐ必要がある。


<意外にぜい弱な体質>

 自動車メーカーが黒字を確保するために必要な工場の稼働率(損益分岐点)は、7割が一般的な水準とされる。トヨタは明らかにしていないが、関係者によると、同社の損益分岐点は8割程度まで上昇しているとみられる。需要が2割落ちれば採算割れする計算で、同関係者は「意外にぜい弱な体質になっていた」と話す。

 トヨタは年間約1000万台の生産能力を抱えるものの、2009年3月期の販売は前年実績比15%減の754万台を見込んでいる。昨年末に今年度2度目の業績下方修正をした際、売上高の修正幅が1兆5000億円だったのに対し、営業損益の引き下げ幅が7500億円と大きかったのは、円高の影響もさることながら「操業率が損益分岐点を下回ったことが影響している」(証券アナリスト)とみられる。

 トヨタの損益分岐点が上昇したのは、1990年代半ば以降の規模拡大で、生産設備と人員が膨らんだ影響が大きい。2010年代の早期に世界シェアを15%に引き上げることを目指し、年間50万─60万台という富士重工業<7270.t>クラスのメーカーが毎年1社誕生するペースで世界各地に生産拠点を開設してきた。

 トヨタが20日公表した08暦年の販売台数は897万台で、7年前に比べて1.5倍の規模となった。21日にGMが発表した835万台を抜いて業界の頂点に立ったが、その一方でトヨタの設備投資額は7年前に比べて1.7倍の1兆4000億円に増加した。それに伴い減価償却費も1.5倍の1兆円に膨らみ、従業員数は1.5倍の32万人に増えた。


<海外シフトの強化必要>

 トヨタは今後、年間の販売台数が08年比12%減の700万台(単体)でも利益が出る体質に改善する。生産能力の増強は原則として見送るほか、国内では非正規従業員の削減に動いている。しかし、事業環境は想定以上のペースで悪化しており、さらに踏み込んだ固定費圧縮を迫られる可能性がある。

 別の関係者によると、国内工場では2月と3月の生産が、昨年末に計画していた前年比3割減を上回り、半減近くまで落ち込む見込みだという。海外への輸出が多い国内工場は円高のマイナス影響を受けるため「統廃合して生産の海外シフトを一段と強化せざるをえない」(別の証券アナリスト)との指摘もある。

 社長昇格が内定した豊田章男副社長にとっては、嵐の中の船出となる。20日に会見した豊田副社長は、今後の施策について「今はただ、身が引き締まる思いで具体的に話せる段階ではない」と述べるにとどめたが、同時に「過去に縛られることなく、大胆に勇気をもって変革していきたい」と発言。創業家出身者ならではの「聖域なき改革」を進める考えを示唆した。


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