プジョーの最新モデル、308は、ハッチバック車の新しい可能性を示唆する意欲作だ。独立したトランクルームを持たないハッチバック車は、同じキャビンスペースならば、セダンよりも全長を短くできる。旧型の307は、そうした特徴を際立たせるために、全高を高めにとる高効率パッケージングを採用していた。

 それに対して、308は全長を80ミリ、全幅を60ミリも拡大する一方で、全高を15ミリ下げた。この結果、スペース効率は低下し、ボディはずいぶん大きくなった。そして、室内と荷室の拡大は、307と比べてわずかにとどまった。しかしそれと引き換えに、308はワイド&ローでスポーティなプロポーションを構築している。

 スタイリッシュになった点は大歓迎だが、1800ミリを超えた全幅は気になる。トヨタがクラウンの全幅を1795ミリに抑えたことからもわかるように、日本のユーザーにとって、1800ミリは心理的な“壁”になっている。また、実際問題として、全幅が1800ミリを超えると、立体駐車場の幅制限に適合しないケースも出てくる。

 もっとも、日本に輸入される308は、たぶん全生産台数の1パーセント程度。メーカーとしては、小さなマーケットのニーズに合わせて、コンセプトの柱となるスリーサイズを決められない。つまり、主力市場である欧州のマーケティングデータと、メーカーが掲げる戦略に基づいて設計し、それが今回の方向転換につながった。308を理解するカギはそこにある。

 プジョーはいま、“クラスで最もプレミアムなモデルの開発”を目指している。事実、ひと足先にデビューした207は、ボディサイズにしろ内外装の質感にしろ、間違いなくクラストップの実力を持っている。それは308も同じだ。ひと回り大きくなったボディに、F1を連想させるノーズと長大なヘッドランプを組み合わせたルックスは、存在感にあふれている。

 数百時間かけて練り込んだというボディサイドの面構成も、存在感を強めている理由のひとつ。光と陰を美しく映り込ませることで、実際の形状以上に立体的に見える。だから、308には陰影が強く出るボディカラーがよく似合う。

 インテリアの質感も素晴らしい。ダッシュボードの精緻なシボに始まり、スイッチ類の精度感あふれるタッチ、組み付け精度の高さ、ステアリングホイールやシートの手触りなど、どこから眺めてもすきがない。

 上級グレードのシエロとGTIは、ダッシュボードとドアに本革を張ったインテグラルレザー仕様がオプションでチョイスできる。日本車では、レクサスLS600Hでしか選べない、ラグジュアリー度満点の装備である。

 結果として、308のインテリアはVWゴルフやアウディA3を凌駕し、クラストップの質感を手に入れた、とボクは思う。そしてオプションのレザーインテリア装着車は、メルセデス・ベンツCクラスやBMW3シリーズさえ凌ぐほどのラグジュアリー度をアピールしている。

 主に試乗したプレミアムのエンジンは、BMWと共同開発した直噴の1.6リットル直4ターボ。“直噴方式の小排気量エンジンを過給して、燃費と動力性能を両立させる”という考え方は、VWのTSIとオーバーラップする。ただし、6速か7速のDSGを採用するVWゴルフに対して、308のトランスミッションはトルコン式4速ATである。

 ターボで過給したエンジンは、低中速域から太いトルクを発生しつつ、トップエンドまで気持ちよく回りきる。ATが4速という点はちょっと物足りないが、フラットなトルク特性を持つエンジンは、4速というマイナス面をかなりカバーしている。日本の市街地走行などで少々扱いづらかった、プジョー製AT特有のクセが軽減された点は朗報だ。速さを強く求めるユーザーには、175馬力エンジンと6速MTを組み合わせたGTIをお勧めしたいが、140PS+ATでも動力性能には十分に余裕があるし、静粛性も上々である。

 フットワークは、プジョーらしく気持ちのいいスポーツ性にあふれている。ステアリングを切り込むと、間髪入れずにノーズが気持ちよく反応し、次いでリアがスッと追従。応答遅れのないビビッドなハンドリングは、操る楽しさを満喫させてくれる。高速直進安定性や、高速域でのフラットな乗り心地は見事だ。ただし、荒れた路面での乗り心地にはもう少ししなやかさがほしい。現状では、306時代のような“ネコ足”が完全に戻ってきた、という表現はまだちょっと使えない。もっとも、307と比べるとしなやかさは確実に増しているし、大きく鋭いショックが入ったときのボディのしっかり感は、驚くほど高い。

 プジョーのブランドイメージはドイツのプレミアムメーカーほど浸透していないし、「プレミアムなハッチバック」というコンセプト自体、まだ十分には理解されていない。しかし、実際に眺め、触れてみれば、308には“ハッチバック=実用車”という価値観では説明できない独特のオーラが漂っていることに気づくはずだ。


 

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