◇賃金カット、労組が抵抗 来春に危機再燃も
米政府が自動車大手3社(ビッグ3)のうちゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーに計174億ドル(約1兆5000億円)の緊急融資をする方針を決めたことで、両社の経営破綻(はたん)は当面、避けられる見通しになった。ビッグ3同様、新車販売の落ち込みに苦しむ日本メーカーからは「破綻していればさらに市場は冷え込んでいた」と安堵(あんど)の声が聞かれたが、ビッグ3を取り巻く経営環境は厳しさを増すばかり。市場関係者からは早くも「オバマ次期政権に難題を丸投げしたに過ぎない」(IHSグローバル・インサイトのアーロン・ブラグマン氏)との評価が出ている。
ブッシュ政権がGMとクライスラーに実施する融資は、当初、ビッグ3が必要と訴えていた340億ドルの半額程度で、来年3月までのぎりぎりの運転資金を手当てしたに過ぎない。2社が新たにまとめる経営再建計画も、提出期限は来年3月末。ビッグ3の経営危機問題は、抜本的な解決のめどの立たないままオバマ次期政権に先送りされた。
ビッグ3にとって、再建の足かせの一つが在米日本メーカーに比べ3~4割高いとされる労務コスト。つなぎ融資のための救済法案が11日、上院で廃案となったのも、共和党からの人件費の早期引き下げ要求に全米自動車労組(UAW)が抵抗したためだ。
ホワイトハウスで記者会見したケプラン大統領首席補佐官代理は「経営者、株主、債権者に従業員も加えた利害関係者すべてが、大幅に譲歩する必要がある」と指摘。オバマ次期大統領も「米国民の我慢は限界に来ている。痛みを伴う措置が必要だ」と労使双方に妥協を求めている。
しかし、ビッグ3側には、「UAWが支持する民主党政権になれば、より緩やかな条件で救済してくれる」との姿勢が、労使ともに垣間見えている。GMのワゴナー会長は緊急融資発表後の記者会見で辞任を強く否定。UAWのゲテルフィンガー委員長も、米政府が緊急融資にあたって「09年末までに賃金を外国メーカー並みに引き下げる」ことを目標にするよう求めたことに対し「労働者らを対象とする不当な条件を付け加えた」と批判。「オバマ次期政権や新議会と協力して、確実に不当条件を取り除く」と強調した。
一方、踏み込んだ再建策を示せなければ、自動車業界救済を批判する世論が再び高まるのは必至。資金繰り融資を使い切る3月末以降、両社は再び破綻危機に直面しかねない。
◇日本勢、保護主義を警戒 政府の支援策「欧米に劣る」
日本の自動車メーカーは「ひとまず最悪の事態は免れた」(大手幹部)と米政府による緊急融資を評価している。同時に欧州などでも自国メーカーへの支援の動きが広がっていることから、「競争条件が公平でなくなり、事実上保護主義になりかねない」(同)との警戒の声も強まっている。
ビッグ3の従業員は米国だけで計約23万人。破綻すれば大規模な人員削減や部品メーカーなどの連鎖倒産が予想され「1年で300万人の雇用が失われる」(米自動車研究センター)とされる。日本メーカーは「失業者が増えれば、消費者心理が冷え込み、新車販売も落ち込んでしまう。ビッグ3破綻の打撃は大きい」(中堅幹部)と、米政府の動向を見守っていた。
一方、米政府のビッグ3救済は、世界各国に「自動車メーカー支援」の連鎖を引き起こしている。日本でも、自動車関連で2100億円規模の減税が09年度与党税制改正大綱に盛り込まれた。だが、景気低迷による販売の急減を穴埋めするほどの効果は期待できず、大手幹部は「欧米に比べ見劣りする内容だ」と話す。
ラベル: 2008年自動車ニュース